理想の宣教

ペンネーム:マシマシで

「あなた、ニンニクたべましたね」

 私が社会人になってから数年、学生時代の決まった仲間(男5人)と、年に2度程旅行をしていました。行き先は屋久島、香川のうどん巡り、出雲大社など。その時の気分で、深い意味を持たず、気兼ねしない仲間との旅行はとても楽しく。メンバーの多くが家庭をもって、ほとんど旅行はしなくなった今でも良い思い出です。
 その旅行の一度、新幹線を利用して福岡の友人に会いに行くという旅をしたときの事です。一人のメンバーが前日の夕食に二郎系ラーメン(※1)を食べてきました。このラーメンは、作り手が客に対して「ニンニク入れますか?」と聞くのが通例となっており、その場で「無しで。」と断ることも出来ます。しかし、そのメンバーは口から強烈なニンニク臭をさせながら当日の集合場所に現れたのです。私を含む残りのメンバー全員で彼を袋叩きにしたのは言うまでもありません。

 ある日のミサで、外国人の神父様がこんな説教をしました。

『皆さんがニンニクを食べた後、人から「あなたニンニク食べましたね。」と言われたことはありませんか?または、皆さんが「この人ニンニク食べてきたな。」と気づいたことはありませんか?きっとあると思います。
 それでは、皆さんは毎週日曜日に教会へ来て、ご聖体(※2)を食べますね?そのことを誰かに気づかれたことがありますか?「あなたご聖体をたべましたね。」と言われたことがありますか?
 もし無いのであれば、それは、あなたにとってご聖体よりもニンニクの方があなた自身に与える影響が大きいということです。』

 私はこの説教を聞いて、中学生の頃に教会で体験したことを思い出しました。

 当時、毎週のミサが面倒で教会に行くのが嫌で仕方がなかった頃です。

 ひとりの女性が教会を訪ねてきました。歳は20代後半だったと思います。その女性は遠慮がちに、どこか居心地悪そうに、玄関に立ち尽くしていました。
    何人かの女性信者が声をかけました。「初めてですか?どうぞお入りください。」そして、ミサが終わり、マイクを持った司会者が「今日初めてお越しの方はいらっしゃいますか?」と声をかけ、自己紹介をするよう促しました。
 彼女は近くの病院で看護師をしている方で、信者でも無ければキリスト教のことなどほとんど知らないと言います。すると司会者はさらに質問しました。「もし差し支えなければ、今日ここに来てくださったきっかけを簡単に教えていただけますか?」すると彼女はこんな話をしました。
 『私が勤める病院に、ひとり凄く仕事の出来る先輩がいるのです。私は心からその先輩を尊敬していますし、これまで本当に多くの事を学ばせていただきました。それは、仕事の事務的な事だけでなく、患者さんへの気配り、同僚や後輩への気遣いにいたるまで、人として、とても魅力的なのです。そしてある時、その先輩と二人で話すきっかけがあったので、思い切ってあなたはなぜそんなに魅力的なのですか?と聞いてみたのです。その時先輩が「わたし実はクリスチャンなの。」と言ったのです。私はその先輩の魅力がキリスト教にあるのなら、教会に行けば何かヒントが得られるかもしれないと、大変失礼ながら今日ここにお邪魔しました……。』

 ミサで神父様が話した「ご聖体を食べた影響。」というのは、この女性が語った職場の先輩の行動そのものだと思いました。日々の行動、発言、物事への取り組み方、自分自身を表現する全てが宣教だと思いました。

 私にとって理想の宣教とは、相手から聞かれるまではカトリックを名乗らず、「あの人のようになるために、教会に行ってみよう。」と思ってもらえる生き方をするということです。

 ちなみに私は学生の頃、二郎系ラーメンを食べた翌日にバスに乗っていると、上品で物腰の柔らかい「マダム」という言葉のぴったりな女性から、笑顔で「昨日は焼肉だったの?」と聞かれたことがあります。

 私にとっては、まだニンニクの影響が強そうです。

(※1)二郎系ラーメンとは うどんかと思えるような太麺に、茹でたモヤシとキャベツが山のように盛られ、そこに3センチはあろうかという分厚いチャーシューがのり、さらに「背アブラ」と呼ばれる豚肉の脂身をみじん切りにしたようなものがかけられた、スープを含めた総重量1.5キロ程のラーメンを総称したジャンルのこと。店員からの「ニンニク入れますか?」の問いかけに対して、ニンニク、野菜、背アブラ、スープの濃さなどを「無し」「普通」「マシ」「マシマシ」という独特の言い回しで注文するという暗黙のルールが存在する。ちなみに、「ニンニクマシマシで。」と言おうものなら、ブレス〇アを飲んで一日5回歯磨きをしたとしても、2日間はニンニク臭が取れない。

(※2)ご聖体とは カトリックにおけるミサで信者のみに配られる種なしパンのこと。現在では、小麦粉などを500円玉大に焼き上げた煎餅のようなもので代用されるのが一般的。近しいものでは屋台で売られる水あめを挟む「花丸せんべい(花丸製菓)」が味も食感も似ている。

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